大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)128号 判決

被控訴人は控訴人西本利子にたいし金六万六千五百円、控訴人西本美喜子、同西本寿美子、同西本美恵子、同西本隆英にたいし金三万円宛、及び右各金額に対する昭和二十三年八月十四日から完済まで年五分の金員を支払うべし。

控訴人西本利子のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は控訴人等勝訴の部分に限つて仮に執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は、「被控訴人は控訴人西本利子に対し、金八万七千七百円、控訴人西本美喜子、同西本寿美子、同西本美恵子、同西本隆英にたいし各金三万円宛、及び右各金額にたいする昭和二十三年八月十四日から完済まで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、被控訴会社の設立及び軌道業の譲受け等に関する被控訴人の主張を認める。被控訴人は昭和二十三年六月一日付日本経済新聞に東京急行電鉄株式会社からその営業の一部を譲受けたことを広告したが、右広告の趣旨は譲受営業によつて生じた債務を引受けることを包含するものであると述べ、被控訴代理人において、本件事故当時、生麦駅「ホーム」に駅員がいなかつた事実、被控訴会社の電車の前部車輛第五「ドア」に故障があつた事実、生麦駅「ホーム」に六十燭光の電燈三個がついていたのみであつた事実は認めるが、本件のような二輛連結の電車では車掌だけで十分であり、本件事故当時は「ドア」故障の電車を修理するため入庫させれば旅客輸送が不能となる状態であつたから、乗客の方で十分注意すべきであつた、又六十燭光三個でも「ホーム」の照明には十分で、乗降には支障なかつた、被控訴会社は昭和二十三年六月一日設立せられ、東京急行電鉄株式会社から品川横浜間、横浜浦賀間及びその支線堀ノ内久里浜間、川崎川崎大師間の軌道業並びに沿線バス事業に関する営業を譲受けた、被控訴人が控訴人等主張日時日本経済新聞に東京急行電鉄株式会社から右営業を譲受けた旨広告したことは認めるが、右広告中には譲受営業によつて生じた債務を引受ける趣旨は包含していないと述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

訴外東京急行電鉄株式会社が専用軌道により電車を運転し、運輸業を営むものであること、西本直喜が昭和二十三年二月二十九日午後九時十六分頃右訴外会社の経営する電気鉄道の生麦駅(横浜市鶴見区生麦町所在)において、品川発横浜方面行第二、〇〇五号二輛連結電車(運転手千葉繁男、車掌斎藤利雄)に前部車輛第五「ドア」(進行方向に向つて左側三番目の乗車口)から乗車しようとした際、電車外に転落して、電車の車輪に両下腿をひかれ、出血多量のため間もなく死亡したこと、及び当時右第五「ドア」の開閉装置に故障があつて、他の「ドア」とは別に手で開閉しなければならなかつたことは、当事者間争のないところである。

(イ)  右電車に当時乗つて車掌の任務についていた斎藤利雄は、川崎駅でこの電車に乗りこんだ際前任車掌から、前記ドアの故障の事実を告げられて、これを知つていたにもかかわらず、本件事故の際は自動開閉装置の操作によつて他のドアを閉めながら、前記故障のあるドアを開けぱなしたまま発車合図をして発車せしめたこと、及び(ロ)当時生麦駅には三人の駅員が勤務していたが、本件事故電車の着車から発車までの間、駅員のだれひとりとしてプラツトホームに出ていなかつたことは原審証人一ノ瀬三郎、当審証人斎藤利雄の各証言によつて認められる。右の事実は、本件事故当時、右斎藤利雄並びに当時生麦駅勤務の前記訴外会社被用者が乗客の身体生命の安全のために当然なすべき注意を欠いていたことを示すものである。原審証人宮本泰男の証言によると被害者西本直喜は、電車がうごき出すそのとたんに前記第五ドアのところへ、左手で電車につかまり片足をかけてのろうとしたところ、ころげおちたと認められる。そうすると、右第五ドアを手で閉めた上発車するか、そうでなくても生麦駅員がプラツトホームに出ていて応急の処置をとつたならば被害者西本はころげおちないですんだであろうと認められるから、本件事故は前記(イ)(ロ)の過失ある行為によつてひきおこされたと認めることができる。また原審証人小薗勲同鈴木栄当審証人斎藤利雄同千葉繁男は、被害者西本はいつたん乗車したが、プラツトホームにおきわすれた鞄をとりに下車してそれから飛び乗つたということを聞いたと証言しているが、原審及び当審における証人外山俊二の証言によると被害者西本が生麦駅に近づいたとき同人が乗ろうとする方向の電車が横浜方面から走つてくる音がきこえたので被害者は駅へ向つてかけ出し、改札口を走りこんだということであるから、前記各証人のいうようなことはありそうに思えない。原審証人片平ツギ、原審及び当審における証人大沢寅三郎の各証言によると、本件事故当日被害者西本直喜はその雇主である片平製作所主片平兵治郎から同人息某の誕生祝に招待せられ、前記大沢証人等数人とともに、同日午後二、三時ごろから五、六時ころまで同人方でごちそうになり、その間に少くも三合位の日本酒を飲んだのではあるが、宴終つた後被害者は片平方で九時近くまで眠つて、本件事故の少し前に眼をさまし、同家を辞して生麦駅に向つたもので、そのころには酒の酔はだいたいさめていたものと認められるから、本件事故は被害者がめいていしていたため自らまねいたものだと認めるわけにはゆかない。

以上の次第で、本件事故は、前記訴外会社に使用され、本件事故当時右会社の業務の執行に従つていた者の過失により発生したものであるから、右会社は民法第七百十五条第一項により本件事故による損害を賠償すべき義務を負うものである。

しかして、控訴人西本利子が西本直喜の妻であり、その余の控訴人等は西本直喜の子であることは、当事者間に争がないから、右会社は、控訴人等に対し控訴人等が西本直喜の死亡によつて蒙つた損害を賠償すべき義務を負うものである。

しかるところ、被控訴会社は昭和二十三年六月一日設立せられ、右訴外会社から、品川横浜間、横浜浦賀間およびその支線である堀ノ内久里浜間、川崎川崎大師間の軌道業並びに沿線バス事業に関する営業を譲受けたこと、および本件事故のあつたのは右の品川横浜間の軌道の生麦駅であつたことは、当事者間に争がない。この譲渡に関し、被控訴人は同年同月同日日本経済新聞に、広告を出したことは当事者間に争なく、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第六号証(日本経済新聞社広告部名義の証明書)によると、この広告には、「今般弊社は六月一日を期し品川線湘南線の地方鉄道軌道業並びに沿線バス事業を東京急行電鉄株式会社より譲受け京浜急行電鉄株式会社として新発足致すことになりました」とあることが認められる。ただし、この広告には、譲渡人東京急行電鉄株式会社の営業によつて生じた債務を引受ける旨を、特に明記してはない。そこで、この広告を商法第二十八条の広告とみることができるかどうかを考えるに、「営業の譲渡」という場合の営業とは、営業に関する一団の財産を意味し、物、権利、営業上価値ある事実関係のみならず、営業関係の債務をあわせふくむのであるから、営業譲渡の契約は特段の合意をしないかぎり、譲受人が営業上の債務を引受ける趣旨であると解すべきである。従つて、「営業を譲受けました」という表示は「譲渡人の営業により生じた債務を引受けます」という意味をもつものと認めるのが相当であるから、前記広告は、商法第二十八条の広告と認めることができる。営業譲渡人が営業上の不法行為によつて負担する損害賠償債務も商法の右法文にいわゆる「営業に因りて生じたる債務」であると解するのが相当である。

しかのみならず、原審における控訴人西本利子(第一回)訊問の結果によると、被控訴人が控訴人等に対し、本件事故につき金三千五百円を支払おうと申出たことが認められるのであつて、右被控訴人の申出は、控訴人等に対する損害賠償の義務が存するならば、前記訴外会社のその債務を引受ける旨の意思表示であると解し得られるのである。又被控訴人が本訴の訴状の送達を昭和二十三年八月十三日に受けてから、昭和二十六年七月六日の当審における口頭弁論の終結まで不法行為の成否即ち過失の有無についての防禦方法をつくしながら、一度も本件事故に関する訴外会社の債務を引受けなかつたという主張をしておらないのであるから、この事実も前認定の事実を裏書するものというべきである。以上どの点から考えても、控訴人等は被控訴人に対し、前記損害賠償義務の履行を求めることができるものといわなければならない。

そこで、進んで、損害の金額について考えるに、原審における控訴人(原告)西本利子(第一、二回)本人訊問の結果を綜合すれば、西本直喜は高等小学校卒業後、長らく旋盤工として勤務し、本件事故当時は、片平製作所に勤務し、月收六、七千円を得ていたこと、控訴人西本利子とは昭和五年十一月結婚し、其の後控訴人美喜子(昭和六年生)寿美子(昭和九年生)美恵子(昭和十二年生)隆英(昭和十六年生)の四児をもうけ、控訴人等はすべて本件事故当時は西本直喜の扶養を受けていたことを認めることができる。又原審における控訴人(原告)西本利子(第二回)供述並びに同供述により真正に成立したと認める甲第四号証を綜合すれば、控訴人西本利子は葬儀費用として田辺葬儀社に対し、金二千五百円を支払つた外、葬儀関係者の接待等に金一万四千円を支出したことを認めることができる。

又、控訴人等西本直喜の死亡により蒙つた精神上の損害は、控訴人西本利子は金五万円、其の余の控訴人等は各三万円宛が相当であると認める。控訴人西本利子の支出した前記認定の葬儀費用金一万六千五百円も亦西本直喜の死亡に因り控訴人西本利子の蒙つた物質上の損害と認むべきである。

更に控訴人西本利子は、西本直喜の葬儀に伴い、墓地使用料として、金二千円を既に支出し墓石代として金一万五千二百円を支出するを要する旨主張しているけれども、右主張事実を認むるに足る十分な証拠がない。

よつて控訴人等の請求は、控訴人西本利子につき金六万六千五百円、その余の控訴人等につき金三万円宛及び被控訴会社に対する本件訴状の送達せられた日の翌日である昭和二十三年八月十四日から完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、控訴人西本利子のその余の請求は失当として棄却すべきものである。従つてこれと異る原判決は失当であるから民事訴訟法第三百八十六条に則りこれを取消し、訴訟費用の負担につき同法第九十六条、第九十二条、第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 山口嘉夫 猪俣幸一)

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